(25)


…… 慈  雨 ……

اَلسَّلامُ عَلَيْكُمْ

アッサラームアレイコム
 (あなたに平安を)



 
 数日来、昼間の晴天が嘘のように、夜半に砂塵嵐が起こり、風に煽られた妻宅の2階部分を覆うトタン製庇が軋んで音を立てています。

 特に4月中旬からの砂塵禍で、私の喉は悲鳴を上げており、一時は声が出なくなっていました。
 砂塵吸引のためか咳が止まりませんので、気温が一定になり、春の砂塵嵐が去るのを首を長くして待っている状態です。

 息子も私と同じように咳き込むことがありますので、砂塵との付き合いが無かったため呼吸器系器官が順応しておらず拒絶反応を起こすのではないかと思います。

 液体や固体の喉薬を服用しても効果薄く、勧められて常時、白湯を飲んでもいるのですが、中年の弱った身体が回復するには時間が掛かりそうです。

 喉に優しい日本の湿った空気を吸えば、たちどころに受難から解放されそうですが、夏の帰国までは2ヶ月間ありますので、何とか砂塵に打ち克ちたいものです。


 5月20日午後4時過ぎ、雷鳴とともに雨が激しく降り出しました。
 突然、妻宅のトタン製庇へ満杯のバケツをひっくり返したかのような轟音がしましたので、1階の自室にいても待ちに待った降雨であることが分かりました。
 2ヶ月振りの雨でした。

 砂嵐の時期には、一雨降れば良いのにと、誰もが雨を乞います。
 雨は空中の砂塵を落とし、建物に降り付いた砂塵を洗い流しますので、煤けたような町をさっぱりとさせてくれます。
 ですから、建物から流れ落ちる雨水も路上を流れる雨水も泥水です。

 降雨は半時間ほど続きました。
 日本では夕立と言うのでしょうか、朝から曇り空でしたし、大雨でしたから、にわか雨ではないようでした。

 因みに、にわか雨を日本語は「狐の嫁入り」と言いますが、ウイグル語では「狼の出産」と言います。

 ウイグルの出産についても狼と狐の例えがあります。
 出生した赤ん坊の性別を尋ねる時、「狼ですか狐ですか」と表現することもあるそうです。
 男の子ならば狼で、女の子ならば狐と答えるそうです。
 
 狐は農耕の神、狼は狩猟の神とも言われています。
 日本の狐とウイグルの狼、どちらもシンボル的な動物ですので、狐と狼で表現されるそれぞれの民族・民俗文化を比較するのも面白いと思います。


 カシュガル住民はこのような激しい雨はめったに降らず、しかも直ぐに止むことを知っていますので、妻宅近くの職人街では、店外の商品を取り込み仕事の手を休めて雨空を眺めているか、客足が遠のいたので早めに店を閉めてしまうかします。

 雨が止むと、自宅前路上に女性がたむろし、路上に溜まった雨水を処分し始めます。
 妻宅前路上にもご近所の女性が集まり、妻と若い女性5、6人が開けた下水マンホールへ盛んに雨水を流し込み始めました。
 妻宅のご近所に普段は見掛けない若い女性がけっこういることも分かりました。

 女性がする最初の家事が中庭・廊下・階段や自宅前路上の掃き掃除ですので、雨水処理も同じ箒で実に手際が良く10分ほどで終わってしまいました。

 各戸に水道がなかった時代の水運び仕事もそうでしたが、雨水処理も女性と子供の仕事です。
 ただし、水溜りの窪みを直し路面を平坦にするため、敷かれた六角形コンクリート板を剥がして道修理する場合は男性の力が要ります。 (5)参照

 翌日の朝方は、湿気を含んだ空気がひんやりとしており、束の間の涼気が感じられました。
 しかし、昼近くになりますと強い日差しに晒されて、昨日の激しい雨など無かったかのようにいつもの乾いた路面になっていました。

 この慈雨を契機に、喉の痛みから解放され咳が止まることを願っていたのですが、午後から強風が吹き始めましたので、また砂塵攻撃の矢面に立たされてしまいました。




写真1: 突然の大雨に驚く息子。妻宅前路上
f0117129_14123151.jpg

写真2: 職人街も人通りが途絶えた。傘を持っている人は少ない
f0117129_14135117.jpg

写真3: 路上の雨水を処分するため下水マンホールに流し込む
f0117129_1141775.jpg



文・写真の無断転載厳禁
copyright © 2007 ウイグルの生活と文化 all rights reserved.

江上鶴也
[PR]
# by oghuzkahan | 2007-05-23 13:59