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(14)


…… 手 洗 い ……

اَلسَّلامُ عَلَيْكُمْ

アッサラームアレイコム
 (あなたに平安を)


 ムスリム(イスラーム教徒)は食事前に手を洗わなければなりません。
 また、礼拝前の清め洗浄は当然のことながら、トイレの後は必ず手を洗わなければなりません。

 ムスリムにとって手を洗うことは、汚れを洗い落とす行為だけではなく、清めの儀礼でもありますので、手を洗わなければ、即ち、アッラーに背くことになります。

 ウイグルのお宅へ食事に招待されるか、食事時に訪問しますと、先ず、手を洗うように促されます。
 男性客には家人の男性が(女性客には女性が)水差しの水を注いでくれますので、両手で水を受けます。(※写真1)

 もてなしの意を込めて、水差しにはぬるま湯が入れてあります。
 手水湯を3回注いでくれますので、洗い終わると渡してくれるタオルで拭きます。

 ウイグルは滴が飛び散るのを嫌いますので、手を洗い終わると振って滴を落とす癖がある日本人は、ウイグル家庭訪問時には要注意です。


 日本ではインフルエンザやノロウィルスの感染予防に手洗い励行を呼び掛けていますが、カシュガルの感染症と言えばウィルス性肝炎が挙げられ、何年か置きに蔓延しています。

 肝炎流行時は学級閉鎖になったりしますので、衛生面に注意を喚起する、肝炎撲滅キャンペーンが繰り広げられます。(※写真2)
 もしかしたら、ウイグルの癌罹患で、肝臓癌の占める比率が高いかも知れません。

 20年位前の肝炎流行では、劇症肝炎で亡くなった患者もありました。
 当時、カシュガル中の飲食店が数日から1週間以上閉鎖になりましたので、ラマダーン(断食月、イスラム暦第9月)よりも街中がひっそりとしてしまい、私の好きなカワップ(串焼羊肉)も食べられずで、数日間、缶詰で飢えをしのいだ記憶があります。

 それ以来、保健局の指導で、食堂では食器の煮沸消毒や割り箸が義務付けられました。
 行政指導のキャンペーンは一時だけですから、割り箸は漸次一般化しましたが、面倒臭い食器の煮沸消毒はしなくなりました。

 15年位前、知り合いの日本語ガイドから頼まれて、ウイグル語から日本語に訳した、ツアー客用カシュガル案内に、「食事はホテルで、もしくは、必ずガイドに相談して下さい。バザールではガイドに相談無く飲食しないで下さい。ミネラルウオーターはガイドが用意します」などとありましたから、行政も外国人ツアー客が病気感染して問題になることを危惧しているのが分かりました。

 現在でも、感染して病気が蔓延するのが当然のような衛生状態ですから、環境問題同様に行政の積極的な指導と住民の意識改革が最重要です。



写真1: 部屋に通されると手を洗うように促される。手を振って滴を散らすのは厳禁
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写真2: 白壁のスローガン(注:写真の文言は肝炎撲滅スローガンではない)
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写真3: 名物のカワップ(串焼羊肉)。かつて肝炎流行のため数日間食べられなかった
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江上鶴也
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by oghuzkahan | 2007-01-31 19:59

(13)


…… アッサラームアレイコム ……

اَلسَّلامُ عَلَيْكُمْ

アッサラームアレイコム
 (あなたに平安を)


 ウイグルの挨拶は、ムスリム(イスラーム教徒)共通の、「アッサラームアレイコム」 か、
 英語表現 の Hello! How are you? の意味に近い 「ヤクシムシズ? カンダックアフワリンギズ?」 が一般的です。

 相手が知り合いでしたら、「お仕事は順調ですか。お家の方もお元気ですか」 などと、日本と同じような言葉が続きます。

 男性同士の場合は握手(元々、イスラームの習慣であったものが世界中に広まったとされる)、女性同士では互いに左右の頬を付け合う、異性との挨拶は軽い会釈、又は単に挨拶言葉を交わすだけです。

 日本の挨拶は、相手によって表現は様々ですが、お辞儀をしながら 「おはようございます。お寒いですね」 などのように、朝昼晩で違った表現をし、その後、時候と続くのが一般的でしょうか。

 単に挨拶行為である握手と儀礼の基本であるお辞儀とでは、人との交わり方も違っているはずです。
 生まれ育った環境から、挨拶時に握手をするかお辞儀をするかでは、人生や社会の成り立ちさえにも影響するかも知れないと考えるのは超飛躍過ぎでしょうか。

 言葉を交わすことを前提とした挨拶でしたら、「相手との距離を置き」 かしこまって他人行儀に見える日本式お辞儀より、「相手との距離を縮め」 間近に寄って相手の顔を見ながら、誰にでも平等で積極的に親しみを感じようとするような仕草の握手の方が、適当な気がします。

 かつて、「経済は一流、政治は三流」 と言われた日本ですが、日本が世界に冠たる技術立国・経済大国となったのも、政治面などで日本が国際標準に達していないのも、頑固で自他共に厳しく、相手との距離を一定に保つかのような仕草のお辞儀をするからでしょうか。

 カシュガルで当たり前のように握手をしながら挨拶を交わしていたのが、帰国した途端、お辞儀挨拶に変わります。

 お辞儀や敬語が美しい日本人のあるべき姿であるかのようですから、未だ、日本社会はフランクに握手挨拶できる土壌はありませんが、将来、外国系日本人の比率が増せば、私が思う日本社会になっていくかも知れません。

 日本の畳部屋でする正座しての挨拶は、ムスリムが礼拝時にアッラーへの忠誠を表す平伏に似たような仕草なのですが、ムスリムは人に対しては頭を床に着けるような仕草はしません。

 また、お客は挨拶時に帽子などの被り物を取りませんし、部屋の中でも被ったままです。

 新疆ウイグル自治区内のモスクでは、礼拝時に被り物が無ければ怒られるのですが、日本のモスクでは被り物が無い礼拝者の方が多く、無くても何も言われません。

 イスラーム教でも礼拝時に被り物が要る要らないがありますので、所変われば品変わると良く言ったものです。
 しかし、イスラームの挨拶 「アッサラームアレイコム」 はどこでも同じです。



写真1: アッサラームアレイコム。男性同士は握手
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写真2: アッサラームアレイコム。女性同士は左右の頬を付け合う
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写真3: アッサラームアレイコム。ヒゲ面の私は年配者と思われていた (85年)
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江上鶴也
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by oghuzkahan | 2007-01-25 03:28

(12)


…… 茶飲み茶碗 ……

اَلسَّلامُ عَلَيْكُمْ

アッサラームアレイコム
 (あなたに平安を)


 ウイグル家庭では、たまに大勢の来客があります。

 断食明け祭や犠牲祭、結婚、誕生、割礼などの祝い、葬儀や供養等々のイスラーム教にまつわる諸々の行事、また前々回の(10)でご紹介しました、チャイ(親族縁者女性親睦会)や親族食事会等で大勢集まります。

 宴席(主にレストランでの結婚披露宴)の招待状は尽きません。

 私は日本では親類付き合いや友達付き合いの宴席は無いに等しいのですが、翻ってカシュガルでは宴席三昧に閉口するぐらいです。

 誘いを無視することはできない実情もありますし、「親類付き合い」 はウイグル社会の重要なキーワードでもありますから、気が進まなくても出席するようにしています。
 
 宴席で唯一の救いは、イスラーム教戒律で禁じられているアルコール類が出ないことです。
 私はアルコール類を嫌悪していますので、禁じてくださったアッラーに深謝します。


 日本の都市部では結婚披露宴や葬儀では会場に集まり、終われば現地解散する場合が多いのではないでしょうか。
 少子高齢化が進む日本では、親族縁者の集まりといえども、数人しか集まらないこともあるかと思います。
 普段の生活で家に大勢集まるとすれば、子供の誕生会くらいでしょうか。


 さて、宴席で最初に出されるのはお茶です。
 レストランではグラスですが、一般家庭では茶飲み茶碗に汲みます。

 茶飲み茶碗は大きめですので、お茶だけではなく、スープ、ご飯、ヨーグルトなどをよそったりもします。

 因みに、お茶は年中、熱いものが出ます。
 暑いからと言って、冷たいお茶は出ませんが、店売りのペットボトル飲料は冷えたものが売れます。
 
 妻宅には60個ほど茶飲み茶碗があります。
 その内の24個は、2005年8月に息子が割礼をしましたので、割礼祝いの 「日の出前礼拝後の振る舞い」 に要るからと買い足しました。

 購入前、底に英語表記でチェコスロバキアとありましたので、チェコとスロバキアに分離(93年)する前に、はるばる中央アジアを通って輸入されたのだろうかと、ラクダならぬトラックの隊商を想像していますと、妻が 「偽物の中国製に決まっているじゃないの」 と言下に打ち消してしまいました。

 一見、取っ手の無いティーカップのような形をしており、従来の景徳鎮製とは違った斬新なデザインですので、東欧(コピー?)の趣があるように感じました。

 デザインと値段(1個6.5元=約100円)で購入を決めました。
 1個6.5元に落ち着くまでには、恒例の店主と妻との丁々発止と激しいバトルがありました。

 ウイグルが輝いて見えるのは、礼拝、値段交渉、宴席での踊り、羊骨付き肉を頬張る時などでしょうか。

 昨年8月に妻の母親が亡くなり、死後40日までの毎週木曜日に催す 「追善供養の振る舞い」 では、茶飲み茶碗が足りずにご近所から借り受けました。

 茶飲み茶碗の利用として、高台で包丁替わりの 「ウイグルナイフ」 を研磨したり、高台の窪みに注いだ 「オスマ」 と言う植物の葉を搾った液汁を使ってする女性の眉毛化粧時に用いたりします。
  


写真1: 結婚披露宴招待状。左が表側
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写真2: 陶器店の茶飲み茶碗陳列 
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写真3: チェコスロバキア製と表記のある茶飲み茶碗
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江上鶴也
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by oghuzkahan | 2007-01-18 22:21

(11)


…… おもてなし ……

اَلسَّلامُ عَلَيْكُمْ

アッサラームアレイコム
 (あなたに平安を)


 ウイグルは早朝であろうが真夜中であろうが、いついかなる時でもお構いなくお客を迎えます。

 お客があれば、最初にチャイ(お茶)とナンでもてなすのがウイグル流です。

 それがために、ナンを欠かすことはあってはならぬことなのですが、たまに切らしている時に不意のお客があったりしますので、昼間ですとナン屋に走りますが、夜間ですとお隣に請うことになります。

 不意の来客があってもウェルカムで普段と変わらない心構えがあると言うか、逆の立場になりうる場合もありますので、お互い様と言うこともあってか、ウイグル特有の寛容さで迎えてくれます。

 カシュガルでは固定電話が普及しており、公衆電話も至る所にありますし、携帯電話を持っている人も多いのですが、事前に訪問の知らせをしないのが普通です。

 最近は、大した用事が無ければ電話で済ます場合もあるようですが、大した用事が無くても訪ねてはお茶を飲み世間話に花を咲かせるのが話し好きなウイグルの愉しみ方の一つです。

 日本人的常識や時間観念は通用せず、事前に訪問の知らせがあったとしても、時間通りは滅多に無い上に来ないことさえありますので、時間厳守を説くには時期尚早です。

 ただし、断食月や1日5回の礼拝などの宗教戒律は時間厳守されています。


 ウイグルの大らかで懐深いアバウトさが氾濫するカシュガルのウイグル家庭生活にどっぷりと浸かっていますと、私から見てどうでも良いと思われる事柄にさえも、必要以上に神経を使かっているかのような日本社会が奇異に思えます。

 カシュガル好きな日本からのリピーター旅行者でも、チャイとナンの素朴なおもてなしに感激したことで満足してしまい、今まで持っていた価値観を見直してしまうほどの強烈な精神的おもてなしを享受することなく帰路に就かれるようです。

 カシュガルは奥深く容易にはベールの下を覗かせてはくれません。

 衝撃的なおもてなしを受けられたとしても、電車やバスが数分遅れただけでイライラとしていたのが、「今日中に来たら良いじゃないか、ドンマイドンマイ」のような度量(=鈍感力?)の持ち主になれるかどうかは補償できません。



写真1: チャイとナンはおもてなしの基本
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写真2: ナンを買う。手前の円盤形ナン(アク・ナン)は大が1.5元、小が1元(15円)
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写真3: おもてなしを受ける。妻親戚宅居間
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江上鶴也
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by oghuzkahan | 2007-01-14 18:45

(10)


…… チ ャ イ ……

اَلسَّلامُ عَلَيْكُمْ

アッサラームアレイコム
 (あなたに平安を)


 ウイグルの生活と文化(7)で、ウイグル語のチャイは、「お茶」 を意味するとご紹介しました。
 
 「チャイに呼ぶ、チャイに呼ばれる」 などと、大きめな宴席に招待したりされたりする表現にも使われます。

 また、派生語に 「結婚の話し合いの席」 と言うような意味を持った表現があります。

 大凡の結婚話があった後、男性の母親と親戚女性数人が、意中の娘宅へ行ってする結婚承諾伺いを 「キチック・チャイ」 と称します。
 「キチック・チャイ」 で娘側が結婚承諾した後、娘宅でする結納・婚約披露を 「チョング・チャイ」 と称します。
 キチックは 「小さい」、チョングは 「大きい」 の意味です。

 私の場合は他所者であったため、上記の過程を経ずに挙式だけしました。

 日本の九州地方では結納後、「お茶見せ、お茶飲み、お茶開き」 などと称して、ご近所や親戚の女性を招待して結納披露のおもてなしをする所、「お茶講」 と称して宴を開く所、「お茶配り」と称してご近所にお茶を配る所などもあるそうです。

 婚姻儀式に係わる表現として、世界中で 「お茶」 が用いられているのが、案外、多いかも知れません。


 また、日本の頼母子講に似た、「チャイ」 と称する親睦・相互扶助組織があります。

 「チャイ」 組織は男女によって異なります。
 
 女性の場合は、親類縁者女性同士の 「チャイ」 で、月に1度、当番の家や当番が予約したレストランに集まってする親睦会です。
 ウルムチ(新疆ウイグル自治区首都)では、同郷女性親睦会の 「チャイ」 もあるそうです。

 男性の場合は、仕事仲間同士の 「チャイ」 のみで、親類縁者や同郷の 「チャイ」 はないそうです。

 男女の性差で 「チャイ」 組織様態が異なり、社会との関わり方に男女差があることが分かります。
 「男は外で仕事、女は内で家事」 と少し前の日本社会にあった考え方と似ています。
 
 「チャイ」 よって、地縁血縁の紐帯が更に強化されます。


 他所者の私から見ますと、ウイグルの親類縁者付き合いはひどく煩わしそうなのですが、ウイグル社会は地縁血縁で成り立っていると言っても過言ではないくらいですから、親類縁者との付き合いこそ最も重要視されていると言えます。

 妻は、昨年夏に亡くなった母親を継いで 「チャイ」 メンバーに加わり、今月で5回目です。
 妻の 「チャイ」 メンバーは15人で、毎月1人170元(食事代20元を含む)を会費として納めて、当番がお金を受け取るとのことです。

 1月4日は妻の当番日で、食事代を差し引いた2000元(約3万円)ほどを受け取ったと言うか、満期になったため戻って来たようなものです。

 妻が参加しているこの 「チャイ」 組織は、4月で一巡(15ヶ月)しますが、話し合った結果、解散せずにもう一巡させるらしいです。

 この 「チャイ」 メンバーは、持ち逃げができない信頼関係のある中高年の親類縁者同士であることがミソです。
  

 「茶話会」、「tea party」 などと称する、単なる親睦会でしたら世界中にありますが、「チャイ」 と同じような親睦・相互扶助組織も世界中に存在していることでしょう。

 チャイ(お茶)から派生した事柄から、民族や宗教が違っていても、人は歴史・社会的に繋がっているため、当然、考え方や行動様式はどこか似通っています。



写真1: お客を待つ。妻宅居間 
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写真2: 「チャイ」 の参加メンバー(妻親戚女性たち)
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写真3: 最近は、レストランでチャイ(親睦・相互扶助会)をするのが一般的。飲物は当然、チャイ(お茶)
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江上鶴也
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by oghuzkahan | 2007-01-04 22:36