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…… 朝  食 ……


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 (あなたに平安を)


 薬茶以外にウイグルのお茶の飲み方としては、沸騰させた牛乳へ予め準備していたポットのお茶を適量加えて増量させ、塩を少量加えた 「エティケン・チャイ」 という、塩味のミルクティーがあり、主に朝食にします。

 ウイグルの伝統的な朝食は、「エティケン・チャイ」 と 「ナン」 です。
 湯飲みに注いだ 「エティケン・チャイ」 を飲みながら 「ナン」 を食べたり、ドンブリに 「ナン」 を小さく割って入れたものに、「エティケン・チャイ」 を注いで 「ナン」 を軟らかくして食べる 「ナン」 茶漬けが一般的です。

 ウイグルと同じ新疆ウイグル自治区内に居住するトルコ系のカザフやキルギス、またモンゴル系民族も同じような飲み方をします。

 インスタントの 「エティケン・チャイ」 も市販されています。
 癖になる塩味のミルクティーは、日本でも受けるかも知れません。
 
 因みに、硬い錠剤であっても飲み込むからか日本語、ウイグル語ともに 「飲む」 ですが、ヨーグルト、茶漬け、ラーメンなど水気のある食べ物は、日本語では 「食べる」 と表現しますが、ウイグル語では 「飲む」 となります。
 
 「エティケン・チャイ」 に無くてはならない牛乳は、早朝、牛乳屋が売りに来ます。
 牛乳屋は路地に来る最初の物売りで、「スーット、スーット(牛乳、牛乳)」 と野太い売り声を掛けながら家々の門扉の前当たりで待っています。

 牛乳屋のおじさんたちは、日の出前礼拝を終えてから直ぐに仕事に就きますから、妻宅のある路地には、毎朝6時過ぎ頃2、3人来ます。
 牛乳屋とは契約してはいませんが、毎日同じ牛乳屋から買っており、売り声で判別つきますので、いつものおじさんの売り声がしたらナベを持って出て行きます。

 牛乳は、1㎏=2元4角(約36円)です。

 ウイグル語では、「牛乳1キロいくらですか」 と、牛乳、食用油、ガソリンなどは、体積単位のミリリットルやリットルではなく、質量単位のグラムやキログラムで売買、表現します。

 病弱な妻は、毎日、ラクダ乳(250g、10元=約150円)を、内蔵強化や毒素除去に効果があるからと飲用しています。

 ラクダ乳は、搾乳後数時間以内でしたら甘味があり飲み易いのですが、半日も経ちますと酸っぱくなります。
 妻宅へは配達してもらっていますが、搾乳後直ぐが効果があるとのことで、ラクダ農場へ行かれる方もあるようです。

 ラクダ乳は、牛乳に比べてビタミンCが3倍あり、鉄分、不飽和脂肪酸、ビタミンBなども豊富に含み、また血糖値を下げる効果もあるとのことです。

 ウルムチ(新疆ウイグル自治区首都)で暮らしていた頃は、毎朝、近くのバザールへビニール袋入り牛乳を買いに行っていました。

 12月下旬、ウルムチの最低気温は零下20℃以下にもなりますので、注意しておかないと牛乳が凍ってしまいます。
 カシュガルでも零下10℃以下になりますので、牛乳屋は毎朝神経を使っているはずです。



写真1: 塩味が美味しい 「エティケン・チャイ」
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写真2: 朝食はいつも 「エティケン・チャイ」。妻宅では夏季は中庭で朝食を摂ることが多い
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写真3: 毎朝、同じ牛乳屋から買う
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江上鶴也
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by oghuzkahan | 2006-12-18 17:29

(8)


…… 薬  茶 ……

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 5年程前、京都のある名刹からだったか、ウイグルのお茶作法についてのお問い合わせがあったのですが、軽々にもウイグルには特別な作法もお茶菓子もないと回答したことがありました。

 ウイグルは古来より、ウイグル本草学を基に乾燥薬草をお茶代わりにしたり、お茶に加えたりして、家庭で手軽にできる病気治癒や健康促進のためにと飲用しています。

 ただし、健康促進のための飲用であっても、季節によって薬草の種類や量が異なったり、持病等があれば薬草の制限などもあるとのことです。
 また、容量を間違えると逆効果になるため、飲用量には十分注意をするようにとのことです。

 102歳で他界したという妻の母方祖母は、日頃、薬茶を愛飲していたとのことです。

 カシュガルから南東約500㎞に位置するホータン地区の特産薬草を、日本で輸入販売している会社の効能書きに、「人口10万人当たり100歳以上の比率が世界で4番目に多く、ホータンは世界長寿郷の一つである」 とあり、長寿の秘訣が販売している特定の薬草であるとしています。

 最近もブドウが長寿の秘薬らしいとの報告がありました。
 ある成分が健康に良い効果があることは分かりますが、特定の食物を摂取するだけで長寿になるとは考えられません。

 個人や社会が常に健康や福祉を考えており、全ての面に対して十分な保証や対応がされているような、生活全般に渡ってレベルが高い社会であれば長寿社会は実現すると考えます。

 そんなことから、シルクロードの人々が長寿とは到底考えられません。
 ホータンに100歳を超えたウイグルがそう何人もいるというのは信じ難いです。

 薬草が病気治癒や健康促進に貢献していることは疑いの余地はありませんが、ホータンが長寿郷とするには、大いに疑問があります。

 政府機関で住民の正確な生年月日が把握されるのは、文化大革命終了以後の70年代末からだと思いますので、年齢自己申告は当てになりません。

 また、食生活や気候風土からウイグルは実年齢よりもかなり老けて見えるのが普通です。

 骨年齢検査など科学・医学的に検査をすれば、ホータンが長寿郷であるか否かが証明されますので、私の疑問は払拭されます。

 科学的調査により、世界の長寿郷地図が塗り替えられるかも知れません。
 
 10年程前、「世界お茶会議(フェスティバル?)」 が韓国で開催されましたが、開催数日前に参加すると言うウイグル女性と北京・中央民族大学で歓談した際、北京在住のホータン出身ウイグル男女2人が参加し、ホータンのお茶事情を紹介するとのことでした。
 きっと、ウイグル薬茶と長寿について発表されたのでしょう。

 ウイグルは常日頃、薬茶を飲用していますので、いつか薬茶が長寿に繋がると証明されれば、世界中の耳目を集めることになるでしょうが、本当の100歳以上探しが先決です。
 


写真1: 薬茶について書かれた本
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写真2: ウイグル薬種店(セクセンハルタ)。 大バザール内
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写真3: 絨毯の絵柄。お茶を淹れる婦人
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by oghuzkahan | 2006-12-16 23:46

(7)


…… お  茶 ……


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 水は飲料用には一度沸かします。
 食事時、ウイグルはお茶を飲むのが普通なのですが、妻宅では白湯を飲み、お客があればお茶を淹れます。
 倹約しているわけではないのですが、妻はお茶の匂いが嫌いですので、家族も従っています。

 お茶はウイグル語で 「チャイ」 と言い、チャイは広東語の 「チャ」 が訛ったものと言われています。

 日本でチャイと言うと、インドの甘いミルクティーが有名ですが、インド周辺に限らず、中央アジア、中東、ロシア、北アフリカでも、チャイの呼称でお茶が愛飲されています。

 ウイグルは従来、廉価な湖南省産の茯茶(緑茶を自然発酵させた黒茶の一種)を飲用していました。
 茯茶は、アミノ酸、ビタミン、ミネラル、食物繊維などが豊富に含まれており、現在でも野菜不足がちなので、補う意味からも貴重な飲物です。

 中国内に居住するウイグルと同じトルコ系のカザフ、キルギス、またモンゴルやチベットでも茯茶を飲用しているとのことです。

 しかし、茯茶にするのは屑茶や枝茶のため、粗雑に扱われ、「収穫中にオシッコをかけられた茶葉も混ざっている」と、十数年前の新聞記事が噂となって茯茶の悪いイメージが広まりました。
 「そんな汚いお茶は飲みたくない」 と、今では紅茶が広く飲用されるようになっています。

 ウイグルはとてもユーモアのある話し好きですから、小さな出来事でも面白可笑しく話に輪を掛けますので、噂話がまことしやかな事件となって広まったりもします。

 茯茶の新聞記事は本当なのでしょうが、ウイグル商人が紅茶を広めるために、「茯茶は汚い」 と、風説を流布させたのではないかと勘繰ってもいます。

 茯茶をウイグル語ではカラ・チャイ(黒・茶)といいます。
 紅茶はキズィル・チャイ(赤・茶)と中国語の直訳ですが、以前はパミル・チャイと言っていました。

 パミル・チャイとは、パミール山脈の向こう側のチャイという意味だと思っていたのですが、郷土史家に尋ねましたら、「パミルチャイとパミール山脈とは無関係であり、昔はインドとの交易があって、湖南省の茯茶が来るまで、インド紅茶を飲んでいた」 とのことでした。
 
 新唐書・陸羽傳に 「回紇(古代ウイグル)と茶馬交易した」 と記載があります。
 
 唐、宋、明時代、茶馬交易をしていたので、ウイグルは現在と同じ茯茶を飲んでいた可能性があります。
 
 インドでお茶栽培されるようになるのが19世紀半ばですので、もしカシュガルにインド紅茶が将来されたとしたら19世紀後半になるのでしょうか。

 19世紀後半にムスリムの反乱があり、カシュガルを中心に数年の短命王国を築きますが、清の茯茶を嫌って駆逐させ代わってインド紅茶を飲むようなったのでしょうか。
  
 かつてカシュガルにイギリスやロシアの領事館があった頃、外交官はインド紅茶を飲んだでしょうが、ヘディンやスタインなど西域探検家はカシュガルでどんなお茶を飲んだのか興味があります。

 ウイグルの生活と文化に深い関わり合いのあるお茶について思い巡らせていますと、歴史の表には立たないウイグルの生活変遷が垣間見られるような気がします。
 


写真1: お店で販売されているお茶。下段左端と中央の紙包みが茯茶(カラ・チャイ)
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写真2: キズィル・パミル・チャイとウイグル語表記がある
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写真3: お茶販売会社の車。カスカン通り(職人街)
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江上鶴也
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by oghuzkahan | 2006-12-11 16:14

(6)


…… 水 ……


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 降雨が少ない乾燥地カシュガルでは、水が貴重であることは推して知るべし。

 現在、カシュガル市内の上水道は普及しており各戸に設置されています。
 また、下水道は高層住宅では普及されていますが、平屋は一部未設置もあります。

 公衆トイレは有料(2~3角=3~4.5円)で当然水洗トイレです。
 水洗では無かった昔の公衆トイレは、臭くてしかもドア無しでしたから、ホテルまで我慢するしかありませんでした。

 20年ほど前は、上水道がほとんど普及しておらず、共同水場に水を買いに行っていました。
 バケツ1杯が2分(=2円弱、当時は1元=約90円)でした。

 各戸にはトタン製水タンクや陶器製水瓶があり、満たすと数日間持ちますので、満杯になるまで何度も往復していたとのことです。

 以前ほどではありませんが、現在も年に数回、予告無しの断水がありますので、妻宅には不測に備えて大きなトタン製の水タンクがあります。

 水運びはほとんどが女性と子供の仕事で、11月下旬には最高気温が零下の真冬日になりますので、寒い中、水運びは大変だったようです。

 大人は子供に何だかんだとよく手伝いをさせています。
 子供は従順で大人の言うことに不平一つ言うこともなく手伝いをしています。
 このすごく自然な立ち振る舞いを側で見ていて気持ち良いです。
 翻って、日本では子供が喜んでお手伝いをしているとすれば、犬猫の世話くらいでしょうか。
 何でも良いから子供に手伝いをさせることは立派な教育であることが分かりました。

 さて、妻宅は上水道設置資金がありましたので81年と早く、当時、路地居住区では家に水道があったのは2軒のみだったとのことです。
 水洗トイレにしたのは02年と最近のことです。

 水道代は原則メーターで決めるらしいのですが、水道や電気のメーターは操作し易いことから、実際の水道料金は家族数で決めているとのことです。
 妻宅は私を入れて4人家族ですので、1ヶ月6元(=約90円)ほどです。



写真1: 共同水場で水を買う(1985年)
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写真2: バケツ運搬車を使って一人でバケツを運ぶ(1985年)
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写真3: トタンの水タンク作製。カスカン通り(職人街)
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by oghuzkahan | 2006-12-06 19:49

(5)


…… 雨  後 ……


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 ふた昔前、雨の日、私が日本から持って来ていた折りたたみの雨傘を珍しがられました。
 「カシュガルでは強い雨も長雨も降らないから、傘は要らないのだ」 と言われました。
 ただ、土道がぬかるみになるのでゴム長靴があれば便利なのだがと思いました。

 妻が日本滞在中に、「日本は雨が多いから木の葉も綺麗なのだ」 とよく言ったものです。

 カシュガルの木の葉は、粉末のような土埃がこびり付いており、光合成するのも困難であるかのようで痛々しいのですが、もしかしたら、土埃が葉の表面を乾燥の脅威から守ってくれているのかも知れません。 

 カシュガルでは雨は夏に多く、カラカラに乾いた大地を潤してくれる、まさに天の恵みです。
 大気の砂埃を洗い落とし、束の間の湿り気と澄んだ空気をもたらしてくれる雨は大歓迎です。
 中庭の植木に水をやる手間も省けます。

 ところが、カシュガルの街中で暮らしていますと、その干天の慈雨が時としてうっとうしいこともあります。

 雨後の路面に雨が溜まっていますと、始末するのにいつもの掃除より労力も人手も要ります。
 力仕事でもありますので男手がある方が仕事がはかどりますし、子供も頼りになりますので、家族総出の労働です。
 もし、老人所帯や母子家庭などで人手がなくても、イスラーム教も町内制度も相互扶助が周知徹底されていますので、ご近所が助け船を出してくれます。

 「雨降って地固まる」 ならぬ、「雨降って地域結束なる」 です。

 助け合いの精神は、ムスリム(イスラーム教徒)の義務の一つであり、善行を積むことにもなりますので、住んでいる地域だけに限らず、困った人を助けるのは当然のこととされています。


 カシュガルのウイグル社会の根底にあるものは、地縁血縁と信仰だと思います。

 今日の日本のように人との関わり方も信仰心も薄れている社会で育った人間との違いは、何か大事にぶつかった時の対処の仕方で分かると思います。

 例えば、商業の民でもあるウイグルは、代々若くして異国へ出向いて居を構え、営々と商売に励み、商業ネットワークの拠点を築いて故国の本拠地との連帯を作り上げていたようですが、裸一貫の異国人相手商売とネットワーク拡大は、まさにウイグルの生育環境に因り獲得した潜在能力を上手く引き出せた結果なのだろうと考えられます。
 
 黙々と雨の後始末を続けるウイグルを傍観していますと、彼らのまるで天賦であるかのような商才は、日々の生活の積み重ねにより身に付いたものだ、とつくづくそう思います。



写真1: 雨の翌日早朝は大変、いつもの掃除よりも労力を使う
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写真2: コンクリート六角板を剥ぐにはかなりの力仕事になる
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写真3: 何気ない労働が地域の結束を固める 
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江上鶴也
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by oghuzkahan | 2006-12-03 22:03